ロゴ九州工業大学次世代パワーエレクトロニクス研究センター

研究紹介

IoE 社会のエネルギーシステム~革新的デバイスの適用によるエネルギー供給コストの定量的評価~

PE 技術貢献ロードマップのイメージ
PE 技術貢献ロードマップのイメージ

Society5.0 の具現化に向けては,さらなる温室効果ガスの削減とエネルギーの多様化を両立させることが課題の一つである。この課題を解決する鍵の技パワーエレクトロニクス技術(以下,PE 技術とする)がある。PE 技術は,エアコンやパソコンの電源装置などにおいて省エネや小型化などへの寄与が大きく,応用先は多岐に亘っている。近年の太陽光発電などの再生可能エネルギーを電力系統へ連系させる際の回路にも用いられている。このPE技術においては,炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウムに加え,近年では酸化ガリウム(Ga2O3)など革新的な半導体素子の開発が進んできており,これらの適用により,機器の小型化・高効率化など機器側の利点のみならず,電力損失の低減やエネルギーの利用率向上など,エネルギー供給システム全体においても利点があり,PE 技術の普及を推進していく必要がある。

一方,PE 技術の普及を推進するには,新たな技術が導入された場合の社会的な効果を予め定量的に示して,社会コスト低減効果を共有する必要がある。加えて,普及の障壁となる技術的課題を整理して,技術者を含め多くの人と認識を共有する必要がある。

本研究では,エネルギーマネジメントシステムを構成するエネルギー供給路全体に革新的なPE 技術を適用することで得られる技術的な便益(電力損失の削減,電力品質の向上など)や経済的な便益(社会コスト削減効果など)を定量的に明らかにする。これにより,社会実装に向けた指針が明確になり,さらなる技術進展の速度を向上させることに寄与する。

本研究テーマは内閣府・戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)のテーマの一つとして採択されている。

広範囲な入力電圧変動に対応した電流共振コンバータの高電力密度化に関する研究

広入力電圧範囲・高電力密度化におけるトランス設計の課題
広入力電圧範囲・高電力密度化におけるトランス設計の課題

LLC コンバータに代表される電流共振コンバータは補助回路なしでソフトスイッチングが実現でき小型・高効率・低ノイズの特徴を有することから民生・産業機器用電源として広く利用されている。また、LLCコンバータの同期整流技術の導入によりさらなる高効率化が実現できるようになったことからこれまで利用されてこなかったアプリケーションへの適用が期待されるようになってきた。

一方、システム構成の面からこれまでの適応状況を見てみると、LLC コンバータはPFC コンバータと組み合わせて利用する場合が殆どである。そのため、LLC コンバータは入力電圧変動が小さい場合を想定して設計される。最近では、バッテリーを入力とするシステムへの利用が期待されており、広い入力電圧範囲への適応と高電力密度を同時に満たすことが要求されている。しかし、上記要求を同時に満足しようとすると下記3 つの理由によりトランス巻き線の損失が著しく増加することがこれまでの研究で明らかになっている。

  1. 巻き線の細径化による銅損の増加
  2. 小励磁インダクタンスによるコア損失の増加
  3. トランスコア間の広空隙による渦電流損失の増加

これらの問題はLLC コンバータの広入力電圧範囲化及び高電力密度化の実現を著しく阻害する。上記問題の発生メカニズム及びその解決手法についてはこれまでに報告しているが、軽負荷時の制御性が著しく損なわれるという新たな問題が発生している。

本研究では、新たに発生した問題を解決するための設計手法や制御手法について検討している。

超小型電源が切り開く次世代電力ネットワークシステムの研究開発

超小型電源が切り開く次世代電力ネットワークシステム

低炭素社会実現のための前提となる高度電力化社会では、多くのパワーエレクトロニクス機器が部品化され大量に使用されることを考えると、それら機器の高効率・小型化(高電力密度化)が必要になる。現に、パワーエレクトロニクス機器は15 年で1桁の高電力密度化が進んでおり、グリーンエレクトロニクス分野の中でも集積化パワーエレクトロニクスシステムの研究開発は益々重要となってくる。また、ビッグデータ、クラウドコンピューティングの到来と共に情報通信機器の電力消費量は爆発的に増大し通信用パワーエレクトロニクス技術の高度化による高効率化と小型化が必須となってきている。電力ネットワークシステムでは様々なセンサが大量に用いられ、これらへの電力供給が大きな課題となることが予想され電源の高度集積化技術の重要性が高まっている。

本研究では、データセンターにおける次世代電力ネットワークシステムに対応する超小型電力変換器の研究開発を行っており、現状、400V・1kW 出力で効率97.5%・電力密度12W/cc を達成している(一部アジア成長研究所での成果を含む)。さらに、回路方式及び冷却部分の改良やSiC やGaNにより25W/cc を超える高密度電源の開発を進めている。また、センサ用集積化電源(パワーSoC 電源)の開発も進めている。

電源の究極の小型化を目指したpower-Supply on Chip 研究

電源の究極の小型化を目指したpower Supply on Chip 研究

電源の研究トレンドは小型化であり、電源の究極の小型が実現できるPowerSupply on Chip (Power SoC) が注目を集めている。我々の研究グループでは、Si パワーデバイスに比べて高周波(数十MHz〜数百MHz)・高降圧比(高い入力電圧、低出力電圧)で高効率動作が期待できるGaN パワーデバイスの使用が可能な3 次元Power SoC を提案した(図1)。3 次元PowerSoC は、各種デバイスを3 次元に積層して実装するため寄生インピーダンスを極限ま で減らすことができ、30MHz で損失を約1/3 低減できる(図2)。

3 次元Power SoC ではGaN パワーデバイスとSi-LSIをデバイスプロセス終了後積層するため、室温でのウエハー接合技術の開発が必要となる。我々の研究グループでは、GaN パワーデバイスとSi-LSI をfaceto face で接合することを想定し、Si(100)基板とGaN/Si(111)基板を室温で接着し、Si(111)基板を除去する技術を開発した(図3)。

3 次元Power SoC はLSI やMicroElectro Mechanical Systems(MEMS)プロセスで製造するため大量生産が可能で低コスト化が可能な反面、 大量生産に見合う用途開発が必要となる。これに対して、デジタル制御電源への期待が大きい。従来のデジタル制御電源ではスイッチング周波数の1000 倍程度のクロックで動作するDSP が必要であるが、クロック周波数200 MHzのDSP とDirect Digital Synthesizer(DDS)を用いて5 MHz で動作するデジタル制御電源を実現した。

パワーエレクトロニクス回路用キャパシタ評価

キャパシタ評価研究の概要
キャパシタ評価研究の概要

インバータ等のパワーエレクトロニクス回路で使用される直流リンクキャパシタはパワー半導体デバイスや磁気素子に比べ寿命が短く,高パワー密度化の制約だけでなく機器の信頼性低下を招いている。故障を完全に防ぐことは困難であるが,健康状態のモニタリングにより故障時期を推定できるようになれば信頼性が向上する。
本研究ではこれまでに,加速劣化試験によりキャパシタ劣化の直流バイアス依存性を実験的に解明し,キャパシタの健康状態のモニタリングには従来使用されていた等価直列抵抗(ESR)だけでなく,キャパシタンスの観測も必要不可欠であることを明らかにした。その知見をもとに,ESR/キャパシタンス双方をオンラインでモニタリングする手法を開発している。
実電圧・実リプル電流波形からキャパシタ寿命の指標であるESR とキャパシタンスを独立に抽出するためには2 方程式必要であるが,従来用いられていた実効値を用いる手法では1 方程式しか得られない。そこで,実電圧・実リプル電流に高速フーリエ変換(FFT)を適用し周波数成分毎に分解し複数の方程式を立式することでESR/キャパシタンス双方を抽出するモニタリング手法を提案した。この手法は,コンデンサを取り外すことなく,かつ検出用の電流なども必要としないため,コンデンサの実動作環境におけるオンラインのモニタリングが可能である。したがって,インフラ設備用など運転停止ができないインバータにも応用可能である。回生の必要ないモータ駆動において広く利用されているダイオード整流器・三相PWM インバータを用いたシステムに提案法を適用し,ESR/キャパシタンスの独立なモニタリングを実証している。
本手法は電流センサを用いており,実用化にあたってはコスト増加が問題となる。今後はインバータの回路状態を解析し,コンディションモニタリングの電流センサレス化を図る。

空調用インバータを活用した電力平準化の研究

キャパシタ評価研究の概要

エアコン消費電力

太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの導入が進められている。これらのエネルギーは発電電力の変動が大きく,かつ既設の発電機と異なり慣性力が極めて小さい。将来的に再生可能エネルギー100%導入を達成するのには電力は需要と供給のバランスをリアルタイムで調整するだけでなく慣性力の強化も必要不可欠である。バッテリーなど蓄電デバイスを用いる手法も検討されているが,再生可能エネルギー100%の条件下では膨大な数のデバイスが必要でありコスト増加につながる。

本研究では,蓄電デバイスではなく負荷の電力を積極的に制御することで電力の安定供給を実現することを目的に,空調用インバータの消費電力制御に着目している。空調設備が設置された部屋の熱容量を積極的に活用すれば,僅かな温度変化でも膨大なエネルギー変化を生み出すことが可能であり,これまでの系統にはない新しい慣性力として活用できる。
基礎検討として,三相200 V 1 kW 定格のインバータエアコン試験環境を構築し,エアコンの消費電力の制御性について測定をしている。試験環境はエアコン本体の消費電力と室温・外気温をリアルタイムで取得できるようにしており,データベース化を図ることで慣性力としての実現可能性について定量的に評価できるようにしている。これまでに,エアコンの消費電力の±5%を慣性力としての調整力に充てることを目標に,エアコンの設定温度の調整による消費電力の増減について計測を行っている。その結果,1 台のエアコンでは消費電力を断続的にしか制御できないが,複数台のエアコンを集団制御することによって±5%の調整力をスムーズに実現できることを実証している。今後はエアコン用インバータの制御手法を工夫することでより大きな調整力が得られると期待できる。

高耐圧ダイヤモンドパワーデバイス構造設計

独自開発:超高速温度分布可視化システム
(左上)次々世代パワー半導体試作装置(学研都市共同研究開発センター205 室)
(左下)ダイヤモンド基板 (右上下)ドーピング薄膜合成中の様子

パワーエレクトロニクス機器を構成するパワーデバイスの高性能化が、低炭素・省エネルギー社会の実現に不可欠であり、シリコンデバイスの性能限界を超えるパフォーマンスを実現する次世代パワーデバイスとしてSiC やGaN などのワイドギャップ半導体が市場に投入されつつある。ワイドギャップ半導体の一つで高い臨界電界が特徴であるダイヤモンドは、高電圧を扱う直流送電などのパワーエレクトロニクスで新しい半導体材料として期待されている。

当センターではp 型、n 型、ノンドープダイヤモンド薄膜の合成可能な次々世代パワー半導体試作装置を導入し、超高耐圧ダイヤモンドパワーデバイスの開発を進めている。不純物ガス(トリメチルボロン、トリメチルホスフィン)を用い、p 型、n 型薄膜合成の最適条件を見出し、デバイス作製プロセスの構築、高耐圧化のための設計および要素技術の開発を行う。

超小型電流センサ開発

独自開発:超小型ロゴスキコイル電流センサ
独自開発:超小型ロゴスキコイル電流センサ

プリント基板上への集積化と信号処理IC 技術と融合した、新しい概念の電流センサを開発した。特殊なプリントパターンと独自の信号処理技術で1000 分の1 に小型化・低コスト化を実現。1A 以下~1000A以上までの広い電流範囲とDC から100MHz まで周波数レンジをカバー可能。

電気自動車や太陽光発電などに使われるパワー半導体や、サーバー用スイッチング電源のプリント基板上に集積化するなど様々なパワーエレクトロニクス機器への応用が広がる。専用ソフトウエアの開発で、電流検出だけではなく故障診断などの機能を付加できることも特長である。既存センサに比べ体積を1/1000 に低減、低コスト化を実現。磁気飽和が起こらないため、小型ながら数1000A 以上まで計測可能である。計測器用アクセサリ、インバータ出力電流検出や二次電池電荷モニタ用など様々な応用が見込まれる。

今年度は特に厚さ0.25 ㎜、幅1.8 ㎜の超薄型センサも開発した。本センサ―により、並行平板配線のすき間や、部品間の隙間、ボンディングワイヤの下部など、今までセンサを挿入できなかった箇所の電流計測に道を開いた。

今後、更なる小型化と高精度化、低ノイズかに向けて開発を進める。

参考:九州工業大学機関リポジトリ

高電圧デバイスの宇宙線故障率

電動航空機や宇宙ステーション用パワー半導体の故障率計算方法とTCAD 解析の例
電動航空機や宇宙ステーション用パワー半導体の故障率計算方法とTCAD解析の例

地上中性子による故障率
地上中性子による故障率

航空機および宇宙船の所要電力は、数十年で大幅に増加し、既に1 メガワットレベルに達してきている。今後はさらに所要電力が増加し、電源供給電圧を1000V 以上の高電圧にする必要に迫られる。しかし、航空機や宇宙機器で用いられるパワー半導体は、高エネルギー粒子(宇宙線)により宇宙線破壊のリスクが増大する。

宇宙線破壊の研究は、これまで地上での実験に基づくモデル式が提案されているが航空や宇宙環境での使用を想定したモデル式や解析方法は提案されてこなかった。本研究では、半導体物理に基づくTCAD シミュレーション、核物理に基づくシリコンでの電子ホールペア発生量のエネルギースペクトル、そして宇宙空間や航空機高度での高エネルギー粒子のエネルギースペクトルからパワー半導体の航空・宇宙応用での故障率の計算の方法を提案した。

PiN ダイオードの故障率を本手法で解析し人工衛星軌道での故障率を世界で初めて理論的に求めた。今後電動航空機などで数十メガワットの変換器が必要になると、本手法による飛行高度での宇宙線故障率の解析は非常に重要になってくる。

高速・高分解能温度分布イメージング技術の研究

独自開発:超高速温度分布可視化システム
独自開発:超高速温度分布可視化システム

パワー半導体の短絡時に、チップ内で電流アンバランスが発生することが示唆されている。電流アンバランスによる電流集中は、チップ内に局所的な高温領域(ホットスポット)の形成に繋がりデバイスの故障原因となる。小型化・高パワー密度化の進むパワー半導体では、短絡時の電流集中による温度変化は10 マイクロ秒以内の現象であり、ホットスポットの発生を実験的に捉えることは困難である。

本研究では高速赤外線カメラを用いてパワー半導体チップの短絡時の温度分布を可視化するシステムを構築した。システムは短絡試験回路、試験デバイス保護回路、赤外線カメラを時間分解能20 ns の高精度で制御し、デバイスを破壊せずに短絡時の高速な温度分布を捉えることを可能にしている。本システムを用いて短絡時のIGBT チップ温度分布を観察した結果、チップ内の温度分布がワイヤボンディング位置に依存することを見出すとともに、半田層内のボイドに起因して発生したチップ内のホットスポットの観察に成功した。また、本システムはより高パワー密度、高速動作のSiC デバイスでも短絡時の温度分布可視化に成功している。

赤外線カメラを使用したパワー半導体の歪みと温度の同時モニタリング

赤外線温度分布画像からパワーデバイスの歪みを可視化
赤外線温度分布画像からパワーデバイスの歪みを可視化

パワー半導体は小型化の開発が進む一方で、デバイス内部の熱密度が上昇し熱応力による故障リスクが高まっている。この問題を解決するためにパワー半導体の歪みと温度分布を同時に計測し、熱応力による故障メカニズムを実験的に解明する必要がある。しかし、歪みと温度分布を同時に計測するには光学カメラと赤外線カメラの二台のカメラが必要であり、小型化するパワーデバイスの微小領域計測は困難であった。

当センターでは、パワーデバイス表面に赤外線カメラで認識可能なパターンを施し赤外線温度分布画像に三次元画像相関法を適用することで、一台の赤外線カメラのみで歪みと温度を同時にモニタリングする技術を開発した。本技術は原理的にはさらなる顕微化が可能であり、パッケージの歪み解析のみならず、半導体チップやボンディングワイヤの歪み解析などへの応用が期待できる。

パワー半導体の高信頼化を促進するリアルタイムモニタリング技術

複合型パワー半導体検査装置
複合型パワー半導体検査装置

パワー半導体の故障原因の特定では、
①過去の故障データに基づく統計的手法
②高ストレスによる加速試験と故障の再現
③FA(Failure Analysis)等による原因分析
を駆使して行われてきた。しかし、近年パッケージ構造等の複雑化が進み上記の方法だけでは原因の特定が困難になってきている。

開発したリアルタイムモニタリング装置は、故障のトリガとなる現象を時間経過とともにミクロなレベルで記録・観測するツールで、デバイスの内部の構造変化をストレス条件である電流・温度分布などをリアルタイムで取得し、故障の瞬間に何が起こっているかを明らかにする。本システムは、様々な劣化現象やそれらが引き起こす故障の様子を捉えることで、局所的なストレスと故障の原因となるミクロな現象の関連付けを可能にし劣化のモデル化にも力を発揮する。

プロトタイプで得た知見から新規開発した現システムは、ユーザビリティの向上によりサンプルをセットすれば簡単な設定のみで測定が開始でき、パワーデバイスの故障解析から材料の劣化試験など幅広く対応できる。現在は、画像処理やAI による特徴抽出・故障判断技術の研究を進めている。

パワーエレクトロニクス機器用ノイズ計測評価

独自開発のノイズ計測システム
独自開発のノイズ計測システム

ノイズ解析結果表示
ノイズ解析結果表示

パワーエレクトロニクス(パワエレ)機器は、省エネルギー性や制御性に優れている反面、スイッチング動作時の急峻な電圧、電流の変化により、高周波の電磁波ノイズを発生する。発生した電磁波ノイズは、周辺の電子機器に悪影響を及ぼす可能性があるため、パワエレ機器の開発にはノイズ対策が必須となる。しかし、従来のノイズ評価は開発の最終段階で行われるため、開発期間の長期化、高コスト化が問題となっている。そのため、開発の初期段階でノイズ評価を行い、ノイズ源を特定できるシステムが求められる。

本研究では、開発の初期段階で可能なダブルパルス試験によるノイズ計測手法を提案した。通常のノイズ強度に加えて磁界ベクトルを可視化することで、より高精度なノイズ源特定を可能にする。

開発した計測システムにより、最小限の電源設備、冷却器、制御回路でのノイズ評価が可能となり、ノイズ設計のフロントローディングに貢献する。本システム専用のインターロック付き安全ボックスを開発し高電圧電源を導入しDC リンク電圧1000V での評価が可能である。さらにアナログ系を見直し計測の広帯域化を行った。

パワーサイクル試験の高精度化に向けた研究

独自開発のノイズ計測システム

 パワーサイクル試験はパワー半導体パッケージの寿命評価で最も重要な試験の一つである。パワーサイクル試験は通電・遮断によりパワー半導体を繰り返し発熱させる寿命試験であり、パッケージ寿命設計の基礎データや寿命予測に用いられる。
パワーサイクル試験において、同一サンプルで発熱量やΔTが同一であっても、発熱方法の違いによって故障までのサイクル数に大きな違いが出ることが報告されていた。本研究では、故障までのサイクル数に違いが出るメカニズムを解明しパワーサイクル試験の高精度化に向けて現象のモデル化を行う。

 我々独自のパワーサイクル試験方法を提案し、同一サンプルでチップの温度係数のみを変化させて実験を行ったところ、温度係数の大きい条件(MOSFETの低電流―高電圧DC通電)は熱暴走により非常に少ないサイクル数で故障するのに対し、温度係数の小さい条件(高電流-低電圧DC通電)ではパワーサイクル数が多くなった。
以上の結果より、発熱条件等を統一しても、サンプル内のチップが持つ温度係数の違いがパワーサイクル試験での故障までのサイクル数に大きな影響を及ぼすことが分かった。

デジタルゲートドライブによるIGBT のトレードオフ改善率評価

独自開発のノイズ計測システム

 IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)はMOSゲート構造を持つ素子でありながら電導度変調により高い導通特性を持つため車載用や産業用などに広く応用されている。IGBTを強力なゲート駆動により高速に動作させるとスイッチング損失は低減するがサージ電圧が増加する。一方でサージ電圧を低減すると結果的にスイッチング損失が増加する。
デジタルゲートドライブ(DGD)方式はデジタル信号によりゲートを動的に変化させることでパワー半導体の過渡特性を制御する駆動方法であり、IGBTの動的特性に関わるトレードオフ特性を解決するために研究が行われている。

 本研究では様々な種類のサンプル及び条件でスイッチング試験を行い、DGD方式による特性改善効果を総合的に評価した。さらに従来の方式によるトレードオフカーブとDGD方式による最適トレードオフカーブを客観的に確認する方法も提案した。
その結果、多くのサンプルでDGD法を採用することで、通常のゲートドライブに比べて20-30%トレードオフ特性が改善することが分かった。また、それぞれのサンプルにより、最適なデジタルゲートパターンが異なり、トレードオフ曲線上で最も改善効果が高いスイートスポットが存在することが分かった。

TCAD シミュレーションによる理論検討

次世代PE 研究センターでは、TCAD シミュレーション(シノプシス社)を用いた解析を行っています。

13kVSG-IGBT 構造および13kVDG-IGBT 構造
13kVSG-IGBT 構造および13kVDG-IGBT 構造

TCAD13kV-IGBT の理論解析

TCAD シミュレーションを用いて両面ゲート構造のUHV-IGBT を設計し6.6kVDC での最大スイッチング特性および導通特性を解析した。直列数を削減しつつ150Hz のスイッチング周波数で動作可能であることを確認した。また終端構造及び必要なキャリアライフタイムの提示も行った。

シミュレーション結果
シミュレーション結果

極限フィールドプレートMOSFET

極限FP-MOSFET をTCAD 上で解析し650V 定格で最新のSJ-MOSFET よりも低いオン抵抗(4.18mΩcm2)を得た。誘電率の低い絶縁材料を用いることでオン抵抗の低減が可能であることも明らかにした。

ゲート電圧波形のモデル化
ゲート電圧波形のモデル化

高dI/dt による誤点弧現象の解析

電流の時間変化に着目し、セルフターンオン現象をモデル化した。セルフターンオン現象はスイッチング時の値dIC/dt とゲート寄生インダクタンスLG の積によって判別でき、セルフターンオン現象が発生しない回路条件を得た。

パワーモジュール内の電流計測技術

開発したフレキ電流センサ
開発したフレキ電流センサ

パワーモジュール評価結果
パワーモジュール評価結果

 パワーデバイス内で発生する電流集中は故障の原因となるため発生メカニズムの解明による対策が必要とされている。電流集中現象には局所的な電流経路がチップ内部に発生する形態とモジュール内の一部のチップに電流が偏る形態の2種類がある。電流集中現象は様々な原因で発生するためチップやモジュール内部の電流を測定し原因の特定を行うことが重要である。

 チップ内部の電流は主電極を介して流れるため、電流分布を直接測定することは不可能であった。本研究では、幅2.1mm、厚み0.25mmと非常に薄く柔軟なフレキシブル基盤を使用した電流センサを開発した。この超小型フレキ電流センサは、チップやボンディングワイヤの隙間など限られたスペースにも挿入できる。今回行ったIGBTモジュール内チップ電流の測定にこのセンサを用いて、モジュール内配線構造の僅かな違いが電流集中の原因になっていることを明らかにした。

特許公開リスト

公開番号 登録日・公開日 発明の名称 発明者
特許第6718626号 令和2年6月17日 "半導体検査装置" 大村一郎
渡邉晃彦
附田正則
特許第6709918号 令和2年5月28日 "ロゴスキ型電流センサ" 大村一郎
附田正則
特許第6709425号 令和2年5月27日 "半導体装置" 附田正則
大村一郎
馬場昭好
US 10,411,111,B2 2019年9月10日 "METHOD FOR FABRICATIONG HIGH-VOLTAGE INSULATED GATE TYPE BIPOLAR SEMICONDUCTOR DEVICE" Ichiro Omura
Masahiro Tanaka
Masanori Tsukurda
Tamato Miki
特許第6465348号 平成31年1月18日 "電力用半導体デバイスのボンディングワイヤ電流磁界分布検出方法
及び装置"
大村一郎
附田正則
田代勝治
篠原長勇喜
中野繁太
大胡田清一
長友一則
特許第6465349号 平成31年1月18日 "電力用半導体デバイスのボンディングワイヤ電流磁界分布検査診断方法
及び装置"
大村一郎
附田正則
田代勝治
松尾和顕
特許第6440175号 平成30年11月30日 "高電圧絶縁ゲート型電力用
半導体装置
およびその製造方法"
大村一郎
田中雅浩
附田正則
三木大和
特許第6288678号 平成30年2月16日 "高電圧絶縁ゲート型電力用半導体装置
およびその製造方法"
大村一郎
田中雅浩
附田正則
三木大和
特許第6153151号 平成29年6月9日 高電圧電力用半導体装置 大村一郎
瀬戸康太
附田正則
特許第6004988号 平成28年9月16日 電力用半導体素子のゲート制御装置 大村一郎
附田正則
三木大和
椋木誠
高尾健志
吉沢大輔
特許第5846421号 平成27年12月4日 半導体回路の電流測定装置 大村一郎
加生裕也
平井秀敏
附田正則
特許第5804494号 平成27年9月11日 半導体装置及びその駆動方法 大村一郎
松本泰明
津田基裕
附田正則
特許第5721137号 平成27年4月3日 半導体装置の短絡保護装置 大村一郎
湯淺一史
谷村拓哉
附田正則
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